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生産現場の「ここが変だよ!」

第13回 変動に弱い変種変量生産ライン

  • 生産・ものづくり
  • 生産現場の「ここが変だよ!」

大森 靖之

「生産するものが毎回違うので生産性が上がらない」が口癖の製造現場

 変種変量型の製造業の現場で、よく耳にする意見を紹介しよう。

「顧客からの受注状況によって生産するものがばらつき、年度や月によってまったく別のものを作っています。そのため、変動に強くするべく汎用ライン・ジョブショップ形態(あるいはセルライン)のライン構成にしています。
 改善といっても、目まぐるしく生産するものが変わるので重点を決めるのも難しいですし、ボトルネックも変動するのでどこの工程を改善したらよいのか見極めがつきません。標準時間も設定できていないので生産計画の精緻化や生産性管理も難しく、製造現場の努力で生産性を上げるのは無理だと思っています。ましてやただでさえ現場は混乱しているので営業からの短納期依頼、突発依頼なんて対応なんてできませんよ」

 各企業の特性によって異なるだろうが、大なり小なり抱えている問題は一緒ではないだろうか。特に個別受注生産は、汎用ライン・ジョブショップ形態をとっているにも関わらず、変動に弱く、生産性が低いラインが多い。

 このような特徴を持つ企業は生産管理レベルが二極化しやすく、高いレベルで管理できる層と後追い対応の層(トラブル後追い型)がはっきり分かれているのが特徴である。

個別受注生産企業の2極化

生産特性からくる管理難易度の高さがゆえに、変革を諦めてしまっている

 筆者は、生産特性を「受注特性」「製品多様性」「工程編成特性」の3つの視点で捉えている。

 まず【受注特性】とは、顧客からの製品受注の仕方を表し、「計画の決めやすさ」を決定する要素である。
個別受注の場合は、顧客と仕様について取り決めを行った後に受注される。製品の繰り返し性が低いため、標準が決めにくく、生産計画が立案しにくい。
 また、見込生産型の受注は製品仕様を自社で決定し、その仕様の中から顧客は製品を注文する。
しかし、実際の製造業では完全な切り分けは難しく、その両方の特性が混在している。

 次に【製品多様性】とは、製品バリエーション、品種数を示し、「管理品目の数」を決定する要素である。一般的には品種による生産時間がばらつきや、工程経路が異なるため、管理品目が増えると管理が難しくなる。個別受注企業の場合は一品一様であるため、管理品目は必然的に多くなる。

 最後に【工程編成特性】とは、製造工程における生産機能の配置、言い換えると工程へのものの流し方を示しており、ライン型とジョブショップ型がある。
 ジョブショップは汎用的な工程経路となり、工程管理の対象範囲が広くなる。個別受注生産企業の加工系職場になるとさまざまな仕様に対応するために、柔軟性の観点からジョブショップが多い。

 変種変量生産の場合、多くの会社が<受注生産・多品種・ジョブショップ生産形態>の特徴をもっていると思う。その形態を持つ企業が高い生産性を保つためには、高度な生産管理機能が必要である。
変種変量企業はその特性上、生産管理の難しさから管理レベルを向上できず(半ばあきらめ)、<後追い対応型のものづくり体質>となるか、<綿密な管理レベルを持つ企業>となるか、2極化する傾向がある。

 ここで<後追い型>に一旦陥ると、事前計画を重視する意義が薄れ、後工程に対してあるいは顧客に対して確固たる見通しを示せない。このような業務に携わる人材の質や意識も低下してしまう。結果、後追い型企業は、驚くほど何もできておらず、生産管理機能が弱いことが多い。

現象としては、

  • 先々の負荷を見える化する仕組みがない
  • 全体最適化されていない生産計画
  • 営業と製造で連携した納期回答がない
  • ボトルネック工程を先読みした改善ができていない
  • 変動しやすいのに、負荷に応じた柔軟な生産体制を構築できていない
  • 部署別・役職別が果たすべき役割が欠如している
  • 管理、改善に必要な人材リソースもない

ことが挙げられる。

 後追い型企業が管理水準を高めることは、大変に難度の高いテーマとなる。今後のさらなる多品種少量化、個別化が進む製造業にとっては、どこかで歯止めをかけて、変革していく必要がある。

生産特性の切り口

生産管理の仕組みを再構築し、先読み改善型のマネジメントスタイルに変革しよう

 変種変量生産企業であり、後追い型企業を改善するには、ボトルネック先読みの生産管理フローを構築し、先読み改善の体質に改善する必要がある。
 特に期待される改善効果は、「納期遵守率の向上、負荷の見える化により、営業と製造の連携が円滑となり受注機会を最大化すること」である。またこの管理の仕組みを導入することで、原価管理や改善基盤の強化にもつながる。

 まずは最初に行うのは、ボトルネック工程の見える化である。その手段としては、負荷積みの単位となる生産枠を設定し、その生産枠の能力を決める。現状の受注状況と生産枠を紐付けて負荷積みする仕組みを作り、ボトルネック工程を見える化する。

 次に負荷計画を立案する中で、平準化できずボトルネックとなった工程を先読みして改善する。例えば、ある工程を山崩しした場合、工程間の干渉により前工程で負荷オーバーとなりボトルネックとなる。これに対しては、生産能力を柔軟に高められるような体制を構築する。

 また生産能力を向上させるだけでなく、技術力を駆使したスピーディな工程改善ができる実力をつける。そして、平準化した負荷計画を元に、各工程へ製造指示し、計画どおり、標準どおりできているか進度を管理する。仕組みの構築とあわせて、それらを機能させるためのキーとなる人材リソースを強化する。このような活動を、ボトルネック先読み改善アプローチと定義している。

ボトルネック先読み改善型の生産管理構築


 以上のような仕組みは、後追い型企業にはほぼない。あるいは機能不全に陥っている。今一度、自社の管理レベル、現場の問題を見つめなおし、生産管理の再構築の必要性を認識してもらいたい。

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